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名古屋地方裁判所 平成3年(行ウ)24号 判決 1992年6月12日

原告

憶念寺

右代表者代表役員

沖秀恵

右訴訟代理人弁護士

那須國宏

渡辺直樹

被告

春日井市長

鵜飼一郎

右訴訟代理人弁護士

山路正雄

右指定代理人

西尾静夫

外五名

主文

一  被告が別紙物件目録記載の土地のついて平成二年二月末日付け及び平成三年二月末日付けで原告に対してした各固定資産税及び都市計画税賦課決定をいずれも取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨。

第二事案の概要

一争いのない事実等

1  原告は、昭和二八年六月一七日(弁論の全趣旨)に宗教法人法の規定により宗教法人となったものであり、別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を含む愛知県春日井市押沢台三丁目五番一宅地4665.82平方メートル(以下「新五番一の土地」という。)を所有している。

2(一)  被告は、平成二年二月末日、本件土地につき、固定資産税を五三万四四〇〇円、都市計画税を一一万四五〇〇円とする賦課決定(以下「第一処分」という。)をし、原告は、同年四月三日、第一処分の通知を受けた。

(二)  原告は、第一処分を不服として、同年五月二六日、被告に対して異議の申立てをしたが、被告は、同年七月二七日、右申立てを却下し、同月二八日、その決定書謄本を原告に送達した。

3(一)  被告は、平成三年二月末日、本件土地につき、固定資産税を六四万一三〇〇円、都市計画税を一三万七四〇〇円とする賦課決定(以下「第二処分」といい、第一処分と合わせて「本件処分」という。)をし、原告は、同年五月二日、第二処分の通知を受けた。

(二)  原告は、第二処分を不服として、同月二三日、被告に対して異議の申立てをしたが、被告は、同年六月一三日、右申立てを却下し、同月一三日、その決定書謄本を原告に送達した。

二争点

本件土地は、地方税法三四八条二項三号及び同法七〇二条の二第二項により固定資産税及び都市計画税が非課税とされる「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第三条に規定する境内地」に当たるか。

第三判断

一証拠(<書証番号略>、証人浅井、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  原告は、もと名古屋市熱田区旗屋一丁目に境内地一二九三平方メートル(以下「旧境内地」という。)、六角堂(本堂)、庫裏等を有して宗教活動を行ってきた。しかし、そのまま旧境内地において活動を続けても、寺有財産の確保、檀信徒の拡充及び檀信徒教化育成のための諸堂宇等の施設の整備は不可能であるとの判断から、昭和六二年三月三日の責任役員会(以下「役員会」という。)において境内地を移転する旨の決定をした。そして、同年一一月一八日の役員会において、移転用地として合筆前の愛知県春日井市押沢台三丁目五番一ないし三の土地(以下、個々の土地を「旧五番一の土地」のようにいう。)を購入することを決定した。その後、同年一二月四日の役員会において、右購入予定地につき地主と売買契約の合意を得たので速やかに移転計画を実行に移し、昭和六三年四月一日をもって右土地に原告の境内地を移転すること、及び境内地移転の基本財源は旧境内地の売却益であるので、速やかに旧境内地の売却交渉に入ることを決定した。なお、昭和六二年一二月二〇日には、包括団体である浄土宗西山禅林寺派から寺院所在地の移転及び財産の処分の承認を得た。

2  その後、移転用地の地主から、移転用地三筆の土地は数年に分けて売買し、未売買の土地については賃貸借契約を締結することにして欲しい旨の要望が出されたので、原告は、旧境内地が売却できていないこともあって、これを了承した。そして、昭和六三年二月一八日、まず旧五番二の土地(1135.74平方メートル)につき売買契約を締結するとともに、他の二筆の土地について境内地として使用する目的で賃貸借契約を締結した。原告は、そのころから、購入する三筆の土地の全体にわたる堂宇配置計画を立案していたが、これによれば、中央に六角堂を置き、その北側に阿弥陀堂、駐車場等を、南側に太子堂、駐車場等を、東側に広間、寺務室、客間、庭等を配置することになっていた。しかし、旧境内地が未だ売却できないでいたため、経済的な理由から全体計画を確定することができない状況であった。そこで、原告は同年七月二〇日、旧境内地から旧五番二の土地に六角堂を移築する計画の建築確認申請をし、同月二七日、その確認通知を受けた。ところが、春日井市の建築指導課から、「移転用地については、はっきりした全体計画を立てて宅地造成計画を提出し、造成が終わってから建築するようにし、それまでは一部を造成して本堂を建てるようなことはしないで欲しい。土地の現状を変更しないのであれば建築してもよい。」との指導がされた。

そこで、原告は、後日右三筆の土地の中央に六角堂を据えるとの構想のもとに、とりあえず旧五番一の土地の南端に仮本堂及び庫裏を建築し、原告の代表者である住職が庫裏に居住し、仮本堂を本拠として宗教活動をするとともに、旧五番二の土地の南端付近に二棟の小屋を建て、そのうちの一棟(以下「小屋A」という。)には主として解体した六角堂の建築材を、他の一棟(以下「小屋B」という。)には建具、仏具等をそれぞれ収納し、また、旧五番三の土地の北東端に一棟の小屋(以下「小屋C」という。)を建てて、解体した客殿の建築材を収納している。

小屋Cだけを他の建物から離して建てたのは、将来の工事の際に、車両の出入りを妨げず、かつ、これを壊さないまま境内整備ができるようにと考えたためであった。

3  原告は、同年一一月一日、包括団体に寺院の所在地を春日井市押沢台三丁目五番地に変更した旨の届出をし、同年一二月一八日の役員会において、残りの二筆の土地を購入する旨の決定をし、平成元年三月二三日、右土地につき売買契約を締結し、同年五月九日、購入した三筆の土地を合筆して新五番一の土地とした。

4  原告は、平成三年一二月ころには新五番一の土地の全体にわたる堂宇配置計画を確定した。これによれば、中央に六角堂を置き、その南側(仮本堂、小屋A及びB付近)に前庭を、東側に庫裏、客僧殿、客殿等を、北側に太子堂、阿弥陀堂等を、北東端(小屋C付近)に駐車場をそれぞれ配置することになっている。原告は、右計画に基づいて、同月二五日、寺院の建築を目的とする開発行為許可申請をし、右申請は、平成四年一月三〇日に許可された。

5  しかし、原告は、旧境内地が未だ売却されていないので、右申請に係る工事を施工するためには銀行から借入れをしなければならず、その手続に手間取っていて、未だ右工事に着工していない。新五番一の土地の客観的状態は、平成二年一月一日以降変更はない。

6  原告は、土地の購入に伴い登録免許税非課税の適用を受けるため、愛知県知事に対し、当該土地が専ら原告の本来の用に供する宗教法人法三条に規定する境内地であることの証明を申請し、愛知県知事は、旧五番二の土地につき昭和六三年四月二七日、旧五番一及び三の土地につき平成元年四月二四日、それぞれ右申請の趣旨に従った証明をした。

被告は、愛知県知事の非課税証明があったこと及び当該土地上に六角堂を移築することにつき建築確認がされていたことから、旧五番二の土地につき現地調査をすることなく、平成元年度の右土地の固定資産税及び都市計画税を非課税とした。平成二年度及び三年度については、新五番一の土地につき現地調査をして、小屋A及びBは物置であり、小屋Aには古材が入っていることを確認したが、小屋Bには何が入っているか確認できず、また、小屋Cは物置で古材が入っていることを確認した。しかし、原告代表者に対する事情聴取をしなかったため、右古材の所有者及び用途は確認できなかった。被告は、原告が旧境内地から新五番一の土地に移転する計画であり、前記建築確認申請等はそのためにされているものであるとの事情を知らないまま、旧五番一の土地上にある仮本堂は原告が宗教活動の用に供している建物であることが明らかであるので、その周辺の土地は原告が専らその本来の用に供する宗教法人法三条に規定する境内地に当たるとの基本的な考えから、小屋A及びBの北側の端付近までは「境内地」に当たるが、新五番一の土地のうちその余の部分は「境内地」に当たらないと判断し、公図上で求積して、本件処分をすることとした。

二ところで、地方税法三四八条二項本文は「固定資産税は、次に掲げる固定資産に対しては課することができない。」と規定し、その三号で「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第三条に規定する……境内地」を掲げ、また、同法七〇二条の二第二項は「市町村は、第三四八条第二項……の規定により固定資産税を課することができない土地……に対しては、都市計画税を課することができない。」と規定している。そして、宗教法人法三条は、境内地とは、同条二号から七号までに掲げるような宗教法人の同法二条に規定する目的のために必要な当該宗教法人に固有の土地をいうものと規定し、同法三条二号は、同条一号に掲げる建物又は工作物(本殿、拝殿、本堂、会堂、僧堂、僧院、信者修行所、社務所、庫裏、教職舎、宗務庁、教務院、教団事務所その他宗教法人の同法二条に規定する目的のために供される建物及び工作物-附属の建物及び工作物を含む-以下「本殿等」という。)の存する一画の土地を掲げ、同法二条は「宗教の教義をひろめ、儀式行事を行い、及び信者を教化育成すること」を目的(以下「宗教目的」という。)として掲げている。

右の各規定からすると、土地が地方税法三四八条二項三号に該当するというためには、次の三要件が必要であるというべきである。① 宗教法人が専らその本来の用に供する土地であること。② 本殿等の存する一画の土地のように宗教法人の宗教目的のために必要な土地であること。③ 当該宗教法人に固有の土地であること。そして、右の規定が固定資産の現実の用途によって非課税にするという特例を定めたものであることに照らすと、右三要件については、次のように解することができる。①の要件は、実際の使用状況からみて当該土地が専ら宗教目的に使用されていることをいう。ただし、右の「実際の使用状況」を余りに狭く解するのは相当でない。例えば、堂宇その他の宗教施設が焼失して、現在は当該土地上において宗教活動が行われていない場合であっても、当該土地上に宗教施設が復興されることが客観的に明らかであるようなときには、その焼跡地は、なお実際の使用状況からみて、専ら宗教目的に使用されていると解するのが相当である。②の要件は、①の要件と関連することであるが、当該土地が宗教目的のために必要なものであることをいい、「一画の土地」とは、いわゆる「雨だれ落ち」の内側の土地との対比を考慮して規定されたもので、当該建物又は工作物の周辺一帯の一区域の土地を意味し、建物等と土地との相互関係から一体的に考慮されるべき範囲の土地をいう。③の要件は、②の要件と関連することであるが、当該土地が当該宗教法人の宗教目的のために必要なもので、当該宗教法人の存立のために欠くべからざる本来的なものであることをいう。

これを本件についてみるに、前認定の事実によれば、原告は、新五番一の土地の中央に六角堂を据え、その余の部分に旧境内地にあった境内建物を移転し、あるいは新たに建物を建築して、同土地全体を一個の境内地として使用するとの構想のもとに、とりあえず仮本堂及び庫裏(これらが宗教法人法三条一号にいう「本堂」及び「庫裏」に該当することは明らかである。)を同土地南端に設置してこれらを原告の宗教活動の本拠とし、かつ、旧境内地に存した六角堂等の建物の解体材、建具、仏具等を右建築工事を行うまでの間収納するために、右仮本堂及び庫裏に近接して二棟の小屋を、同土地の北東端に一棟の小屋をそれぞれ設置していたのであるから、このような実際の使用状況からみて、新五番一の土地は、仮本堂及び庫裏の敷地部分だけでなく、その全体が宗教法人たる原告が専ら宗教目的に使用する土地であって、その宗教目的のために必要であり、かつ、その宗教活動の本拠として原告の存立のために欠くことのできない本来的なものということができる。したがって、新五番一の土地は、全体として前記①ないし③の要件を充足する。

以上のとおりであるから、本件土地は、「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第三条に規定する境内地」に当たるというべきである。

三結論

よって、本件土地は、地方税法三四八条二項三号及び七〇二条の二第二項により固定資産税及び都市計画税は非課税とされるべきであるから、これと異なる本件処分は、いずれも違法であり、取消しを免れない。

(裁判長裁判官瀬戸正義 裁判官杉原則彦 裁判官後藤博)

別紙物件目録

愛知県春日井市押沢台三丁目五番一

宅地 4665.82平方メートル

のうち3155.82平方メートル(別紙図面の赤斜線部分)

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